今回は、活版印刷用語、俗に「キスタッチ」と呼ばれる印刷技術の話です。

「キスタッチ」というのは印刷工程で、いかに紙を凹ませないように刷るかという技術のことをいいます。

今は活版印刷の「あの凹み具合がいい」とかいわれますよね(いわゆるレトロな印刷というヤツ)。

ところが、かつては「凹んだ印刷物はヘタクソな印刷」とされていました。職人さんはいかに凹ませないで上手く刷るか、技術を競い合っていたのです。

さらに、印字のカスレがあったり、汚れの付着、あるいは印刷が濃すぎて文字がつぶれてしまうような不具合を出さずに、サラッとしっかり印刷することが重要でした。



活版印刷機「テキン」

活版印刷機「テキン」





そもそも活版印刷って何?

今、活版印刷が静かなブームになっています。レトロな印刷として。

どころか、一部のファンの間では活版印刷雑貨が “ かわいい ” と大人気。文字の印刷の具合とか印刷の凹んだ感じ、手触りとかが人気の理由。

特に「活版TOKYO」や「紙博」などというイベントは大盛況で、たくさんの人が押し掛けるようになっています。レトロ印刷というジャンルもあるぐらい。確かに印刷業界の人間が見ても、何ともいえぬ味わいが感じられます。

活版印刷業界、また周辺業界も一緒になって、何とか盛り上げようとして活動が活発化。活版印刷の技術を活用し、すごく凝ったデザイン性の高い商品を世に送り出しています。


それでは、活版印刷とはどういうモノでしょうか?

すごく簡単に言うと「はんこ、印鑑」と同じです。金属製の細くて四角い棒に文字が彫ってあるものが「活字」。

まず、原稿に従って活字を拾い出します(文選と言います)。

その活字を指示通りに並べたり、罫を入れたりして組み上げます(この工程を植字(組版のこと)と言います)。

その他にも、線画イラストなどは樹脂凸版で版を作れば印刷できます。

そしてこれらの文字を組んだ活字で印刷する技術を「活版印刷」と言います。



活版印刷の記事です。コチラもあわせてお読みください→新しい?活版印刷の個性‐デジタルにはない「紙を手にする」楽しみ




活版印刷の技「キスタッチ」

業界用語に「キスタッチ」という言葉があります。

活版印刷っていうと、厚めの用紙に、ギュって圧力をかけて刷るイメージがあると思います。

少し凹んでたり、「裏面に圧し跡が出たりするのが味だとか」、「この手触りがいいんだよね」とかいう人が増えているのは、確か。

特に名刺ね。最近、活版で刷った名刺をいただくことが増えています。でもですよ。

活版印刷とて、本来はあまり印圧をかけずに刷るのが◎ そのことを俗に「キスタッチ」と言うのです。

活版印刷以外でも、フレキソ印刷(ゴム版で水性インクを使う印刷)などの凸版印刷でも言われますね。

要は、あまり凸凹させないで印刷する技術が、印刷の職人さんの腕の見せ所な訳です。

いかに凹ませないように刷るか。キレイに刷るか。文字がツブレていないか。インキのノリが悪くてかすれていないか。刷る技術には大変な労力がかかっていたのですね。

それが今や「凸凹がイイ」と言われるようになってるんですからね。

かつては「下手な印刷」と怒られたモノが、高く評価される。まさに時代は変わりました。


活版印刷コレクション 著者 東條 メリー (監修)税込 2,420 円
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活版印刷

読み手に文字を意識させない

必要以上に読み手に文字を意識させないように刷ることが大切と言われます。

活版印刷は、同じ文字であっても一つ一つの活字が微妙に違います。同じ字母から作られた活字であっても、全く同じにはならない。

さらには、紙と接する(要するに印刷する)たびに摩耗しますので、活字自体が少しずつ変化していくのも特徴ですね。

かつてはこれで両面印刷をして本を作ってたので、凸凹してたら読みづらいからね。


確かに、活版印刷の文字は現在の印刷物の文字と比較すると、文字に存在感があります。

これには理由があって、印刷時に文字の輪郭部分が少し濃くなる現象(マージナルゾーン)があるためです。

マージナルゾーンは、活字が紙に触れたときにインキがはみ出し、活字のフチに溜まること(要するに隈取り)でおきます。

これが、活字で印刷した文字がくっきりと見える要因の1つとなっています。

つまり。

  • 1つ1つの文字に表情の違いがある
  • マージナルゾーンがあり、文字がくっきり見える
ために、文字の存在感がハンパなくなります。

それゆえに、「読み手に文字を意識させない」という印刷職人さんの心意気は大事な要素だったんだろうな、と思わざるを得ません。


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