新潮文庫の上部画像
*新潮文庫の上部のアンカット画像

「天アンカット(uncut)」なる製本方法があります。

【天アンカット製本とは?:本の天(上部)を裁断しない製本方法】

*天アンカット製本についての詳しい解説はコチラをお読みください→本の上部がギザギザ。不揃いなのは不良品?「天アンカット」製本とは?

そして、現在、文庫本を「天アンカット」で作っている出版社があります。

本の上部を断裁しない製本=「本づくり(製本)へのこだわり」と言って良いでしょうね。



天アンカット製本|文庫本編

現在、文庫で天アンカット製本を採用している出版社は4社。

  • 新潮文庫
  • 岩波文庫
  • ハヤカワ文庫
  • 創元文庫

です。

あと、角川文庫も以前はこの天アンカット製本でしたね(いつ頃までだったのかは不明)。


以前の角川文庫
*以前の角川文庫も天アンカット製本

一見、雑なつくりの本にも見えてしまいますが、そこには本づくりに対する思いが映し出されているよう。

本の上部を裁断しないで製本すること=本づくりへのこだわり、ロマンが垣間見られるというのはちょっと意外。

参照:文庫豆知識 岩波書店

それは、元々の本づくりがアンカットであったということ。

本とは本来、「天」も「地」も「小口」もアンカット(断裁されていない)だったといいます。

*天=本の上部、地=本の下部、小口(こぐち)=本が開く側、背=本が綴じられている側

袋とじ状態の本を買って、ペーパーナイフで1ページずつ切りながら読み進めていくというものだったらしい(ふる~い時代のヨーロッパのお話)。


本の上部を切り揃えない(裁断しない)製本にする意味とは?

ここからは、完全に個人的な妄想(いや、想像)です。

先に挙げた出版社は、いずれも古くから文庫本を出版している歴史のある出版社。

そこにカギがあると思うのです。

岩波書店さんは、「フランス装風の洒落た雰囲気を出すためということ」と言っています。

やっぱり、製本文化といえば、フランス。

かつてのフランスでは、本文だけを購入して自分の好みの表紙を付けるというぶんかがあったとか。

いまだにそのなごりがあって、製本専門の工房(ルリユール)があります。

現代の日本で、天アンカット製本の文庫を作っている出版社はここのところにこだわりを持っているのでしょう。

つまり、何が言いたいかというと、「文庫であっても本」だということではないでしょうか?

単に安価な本を出版しているのではない、というプライドが天アンカット製本の文庫を出版し続ける意味なのではないでしょうか。

製本に関するこちらの記事もあわせてお読みください:上製本(ハードカバー)&並製本(ソフトカバー)の話

ハヤカワ文庫と創元社文庫
*ハヤカワ文庫(左)と創元社文庫(右)

天アンカット製本の実際

先ほど、「一見、雑に見える」と書きましたが、そうではないということも書いておかなければなりませんね。

天、地、小口を断裁するほうが楽なのです。

楽というと語弊があるか。大量生産の工程的に適している、というべきですね。

三方向の一辺を断裁しない(切り揃えない)というのは、技術と手間、そしてコストがかかるのです。

印刷データの作成から(昔なら組版の段階から)印刷~折加工までをきっちり仕上げないとまともな本に仕上がりません。

あたり前といえばあたり前なのですが、天アンカット製本の場合、そのハードルが上がります。

切り揃えなくても、ビシッと揃うように仕上げなくてはなりません。

非常にシビアな、気を遣う作業になるんですね。

特に、量産タイプの文庫本で、この作業負担が増えるのは製造側からするとなかなかのものだと思います。

製本に関するこちらの記事もあわせてお読みください:並製本とは? 製本についてのお話です。

最後に

個人的にというか、いち印刷業界人としては、天アンカット製本の文庫本は好きです。

そこに製本に対するこだわりとか、熱いものが感じられて。

どの出版社の本を選ぶかというときに、作家・作品で選ぶ場合はもちろんあります。

が、特に何を読むかが決まっていないとき、自然に新潮文庫を選んでいる自分がいます。

もちろん、本文に使われている用紙や書体(実は、これが大きい)、文字組などの問題もあります。

しかし、今にして思うのは、自分にとっては天アンカットであることが重要だったのかな、ということ。

本を手にしたときの温かみのようなもの。

三方がキチンと切り揃えられている本は確かにキレイです。

が、何か機械的に過ぎるような気がして。

どこか一部に自然な感じが残されている、そんなのもよいのではないでしょうか?

天アンカット製本は、出版文化、製本文化を考えたときに無くなって欲しくない(ずっと残って欲しい)ものだと思っています。



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